2018/02/22

L.v.ベートーヴェン/ピアノソナタ第8番 ハ短調 作品13『悲愴』

オーケストラの人間にはベートヴェンは9つの偉大なる交響曲作曲家であり、序曲や協奏曲が重要なレパートリーだ。弦楽器にとっては16の弦楽四重奏、10のヴァイオリンソナタ、7つのピアノ三重奏曲もはずせない。

そしてピアノ。
ベートーヴェンはもともとはピアノ・ヴィルトーゾとしてデビューしたのであり、ピアノソナタは32曲にもなる。『田園』『月光』『テンペスト』『熱情』といった超有名曲と並び最も知られるのがこの『悲愴』だろう。

 『大ソナタ悲愴』("Grande Sonate pathétique") と題されたこの曲はベートーヴェンが27-28歳のころに作曲され、初期に分類される作品だ。
この曲が作曲された時にはまだ交響曲も弦楽四重奏も世に出ておらず、のちの作品のような悲劇性、闘争と勝利といった構成ではなく、「青春の哀傷感」との表現があう感情だろう。演奏家としての限界を感じ、作曲家への転身を図り、そしてベートーヴェンの生涯の苦悩となる耳の病を自覚しはじめたのもこの頃とされ、そんな感情が「悲愴」、悲しみではなく熱情や想いとして込められているようにも思える。

第1楽章:Grave - Allegro di molto e con brio
悲劇性を感じさせる導入部はGrave(重々しく)と指示されはじまる。これは100年後のチャイコフスキーの交響曲第6番「悲愴」が類似しているとも言われる。
優しいメロディーと激しい感情の交差する序奏はやがてAllegroに転じ、焦燥感・焦りの中走り出すような音楽となる。突然中断され再びGraveの音楽があらわれ、緩急の繰り返しが緊迫感を伝えてくる。

第2楽章:Adagio cantabile
歌詞をつけて歌われるほど親しまれるこの楽章は第1楽章とは一転して穏やかな癒しの音楽。
中声部のやや低い音域から高めの音域へとメロディーが映るのはまるで想いを寄せる男女のやりとりのようにも聴こえる。
やがて中間部では三連符が緊迫感を伝え、どこか不安を暗示するような低音の響きを呼び込む。ベートーヴェンの音楽において三連符とはやはり「運命の動機」 で、耳の病を自覚し始める時期の葛藤が美しい音楽の背景にあるのかもしれない。

第3楽章:Rondo, Allegro
激情、悲劇といった感情はいくぶん収まり、どこか達観したかのような軽やかなロンド。
長調の音楽でありながらしかしどこか哀しみを堪えながらもロンドは進み、最後はハ短調の決然とした思い、運命に抗う人の意思を伝えるかのように締めくくられる。