2017/07/20

F.シューベルト / ピアノ三重奏曲 変ホ長調 《ノットゥルノ》 D. 897

シューベルトは晩年(と言っても僅か30歳)に3曲のピアノ三重奏曲を残している。
うち2曲(D.898,D.929)は演奏時間40分を超える大曲なのだが、このD.897は10分ほどの小品だ。おそらくは同時期に作曲されたD.898(シューベルトの死後に出版されたことから「遺作」とされることも)の1楽章として構想されたものではないか、とも言われている。

ノットゥルノは日本語で夜想曲と訳されるが、もっとも有名なのはショパンの作品9-2で、これは映画やTVCMでも使われるので聴いたことのある人も多い作品だろう。
「夜」を「想」うとの訳の通り楽しい夜の集いを思い返す、そんな意味が込められており、分散和音に乗せて穏やかなメロディーから始まり、やや盛り上がりを見せ、また穏やかに終わる、そんな作品が多いだろうか。

同じ意味にセレナーデ、「夜曲」と訳される曲がある。
 これはモーツァルトの「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」に代表されるがどちらかというと楽しい夜の集いになる。

誰が訳したかは分からないが、「夜想曲」とはなんと美しい言葉をあててくれたものである。

シューベルトの晩年の作品は美しいメロディ(しかしシューベルト自身は「美しい音楽に出会ったことがない」が口癖であった)に始まり、いつしか非日常的な孤独な世界に足を踏み入れるような特徴があると想う。
このノットゥルノもそうした1曲で これがシューベルトの魅力と感じるか、もしくはやるせなさを苦手とするかで好みは分かれるかもしれない。

演奏時間の長い作品が多いこともあり演奏者も苦手意識があるシューベルトだが、ぜひ再評価してほしい、そんな1曲である。

演奏会では19歳の時、いよいよ音楽に専念しようと決意を固める若きシューベルトの作品である交響曲第5番をあわせて演奏するのでその対比を感じていただければ幸いである。


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室内楽演奏会vol.8


2017/07/18

田中カレン / Silent Ocean(for Trumpet and Piano)

この作品はロサンゼルス在住の邦人作曲家によって2005年にトランぺッター神代修氏の嘱託により作曲され同年初演されました。

曲は3つの部分から構成されております。
I.Far away - gently 遠くへ、やさしく
II. Love Song - with affection 愛の歌 - 愛情とともに
III.Far away - 遠くへ、非常に軽く

お聞きいただいてどのような海の情景、色を連想されましたでしょうか。
今の季節ですと青春の頃、月明かりの下で散策した夏の海辺の想い出や夕暮れの海辺などなどいろいろ想いを巡らせて頂ければと存じます。

演奏者の思い描いた情景は沈黙の海というタイトルだけに秘密にしておきます。。

Trp 咲間


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室内楽演奏会vol.8

2017/07/17

M.ブルッフ / ロマンス Op.85

「ヴァイオリンとヴィオラの違いは?」「ヴィオラの方が長く燃える」などという「ヴィオラジョーク」が語られていたのは昔の話。近年、ヴィオラの魅力に、はまる人が増えているそうです。オーケストラの中では、主に内声を支える役割をしているので、一見地味な印象がありますが、ベルリン・フィルの指揮者サイモン・ラトルによれば、「ヴィオラは影の立役者。主旋律を奏でることは少ないが、ヴィオラ抜きにオーケストラは成り立たない」というほど重要な楽器です。また、ヴィオラの音域は、ヴァイオリンより5度低く、チェロより1オクターブ高いため、人間の声に一番近く、ヴァイオリンより一回り大きい分、表現力も豊かで深みのある芳醇な響きがします。

長い間、ヴィオラは独奏楽器として認められておらず、ほとんどオーケストラや室内楽で用いられる「合奏楽器」とみなされてきました。独奏楽器として注目されはじめたのは、18世紀後半からです。そのため、ヴィオラ独奏のレパートリーは多くはなく、ヴァイオリンやチェロ、クラリネットなど、他の楽器の曲をヴィオラ用に編曲された作品もたくさんあります。今回取り上げるブルッフの「ヴィオラとオーケストラのためのロマンス」は、ヴィオラのために書かれた貴重な独奏曲です。

ブルッフといえば、有名なヴァイオリン協奏曲第1番の他、スコットランド幻想曲、コル・ニドライなど、弦楽器のための曲に人気がありますが、この曲は、パリのヴィオラ奏者モーリス・ヴューに献呈された、抒情的で美しい曲です。今回はオーケストラではなく、ピアノと一緒に演奏します。ヴィオラって良い音だなぁ・・・と感じていただけたら幸いです。


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室内楽演奏会vol.8

2017/07/16

J.ブラームス / クラリネット三重奏曲 イ短調 Op.114

ブラームス クラリネット三重奏曲イ短調 Op.114
I. Allegro
II. Adagio
III. Andantino grazioso
IV. Allegro

この曲を取り上げる時にまず言われることは、この作品が晩年の作であるというものであろう。作曲されたのはブラームスが逝去する6年前であり、そして、本作がOp.114であることに対し、最後につけられた番号がOp.122であることからも後期の作品ということがわかる。

本作とクラリネット五重奏ロ短調Op.115の2曲は、当時創作意欲の衰えを感じていたブラームスが、リヒャルト・ミュールフェルトの演奏に触発されて書いたといわれている。さらに、2つのクラリネットトリオOp.120を書き上げており、彼が当時クラリネットという楽器を非常に気に入っていたことが推察される。それらのいずれも、彼の晩年の枯れたとでも表現されるような心情を表現しているような名作である。

編成についてみてみると、クラリネット、チェロ、ピアノという珍しい編成である。音色から見ると、クラリネットとチェロのどちらも人間味の出やすい楽器であり、この曲の性質をある程度表しているといえよう。

さて、この曲の特徴について挙げられることに目を移すと、随所にちりばめられた拍のずれが目に入ってくる。
ブラームス特有の各声部が微妙にずれているということはもちろんだが、ブラームスの作品によく登場する、重みをもったアウフタクトの取り方がプレイヤーを迷子にさせてくるのだ。
交響曲第二番の二楽章や交響曲第三番の一楽章にも現れるこの音形は、しかし、彼の表現したい音楽を楽譜として形にするためには必要なものであったのだろう。だとすると、普通に聴いていて楽譜の拍と感じる拍がずれてしまうというのは、実は演奏手法が違っているという可能性もないだろうか。

今回は正しい拍が感じられる音楽を表現しようと試みようと思う。
果たして、今回の演奏でその表現ができているのか、是非演奏後に楽曲の譜面を見て答え合わせをしてみて頂きたいものである。


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2017/07/15

L.v.ベートーヴェン / 七重奏曲 変ホ長調 Op.20

七重奏曲はベートーヴェン30歳の頃に作曲されています。同時期の作品に交響曲第1番がありますが、同じような明るく若々しい曲調です。
とはいえ、編成はヴァイオリン、ヴィオラ、チェロにコントラバスが入り、管楽器はクラリネット、ファゴット、ホルンというやや中低音寄りなメンバーなので、アンサンブルに重みを感じる箇所も多いです。

この曲はヴァイオリンの難易度が他の楽器に比較するととにかく高いと言われます。アマチュアでもヴァイオリンの難易度のために演奏される機会は多くありません。
ヴァイオリンはどの楽章でもアンサンブルの中心となっていますが、他の楽器も随所随所で旋律を奏でていたり、難しそうな箇所もありますので、他の楽器の活躍するところを探しながら聴いてみるのも面白いかもしれません。

第1楽章は全員ユニゾンの序奏からヴァイオリンが奏でるテーマをアレグロで展開させていきます。
第2楽章はクラリネットがロマンス第2番を思わせるような甘いメロディを提示し、ヴァイオリンとの絡みが聴きどころです。
第3楽章は軽快なメヌエットです。トリオ部分のクラリネット・ホルンの掛け合いに注目です。
第4楽章はヴァイオリンの奏でる主題から5つの変奏が演奏されます。それぞれの変奏で主役となる楽器が入れ替わっていきます。
第5楽章はホルンから始まるスケルツォで、後期作品が感じられるような曲調です。トリオはチェロの叙情的なメロディで雰囲気がガラッと変わります。
第6楽章は1楽章と同じく全員のユニゾンで序奏が始まり、ヴァイオリンから軽快なメロディが始まります。第5楽章がリズムを変えて再現された後の展開部の終わりではヴァイオリンのカデンツァがあります。再現部の後、明るく華やかに曲は終わります。


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2017/07/13

野平一郎 / シャコンヌ 4つのヴィオラのための

バッハの「シャコンヌ」といえば、無伴奏ヴァイオリンの名曲中の名曲ですが、今回演奏するヴィオラ四重奏版は、「ヴィオラスペース2000」の委嘱により野平一郎氏が編曲、現在ではヴィオラ・アンサンブルの定番曲となっています。

「シャコンヌ」とは、新大陸からスペインに伝わり、17~18世紀に愛好された、ゆるやかな3拍子の舞曲です。もともとは、決まった低音の上に演奏者などが自由に装飾を加える曲として、ギター伴奏と歌を伴って官能的に踊られていたようですが、バッハの時代には形式だけが残り、低音を主題とした変奏曲として作曲されるようになりました。

バッハが35歳の時、『無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ 第2番 二短調』の終楽章として作曲された「シャコンヌ」は、8小節(4小節とも)でテーマが示された後、様々な変奏が30回繰り返され、最後にまたテーマが現れます。ヴァイオリンという楽器の可能性を最大限に引き出し、多くの技巧をちりばめながらも、同時に深い精神性、崇高さをも兼ね備えた壮大な音の建築物のような作品です。

この曲は、ブラームスをはじめ、後の多くの作曲家を刺激し、ピアノ版からオーケストラ版まで、様々な楽器のために編曲され、広くレパートリーとなっています。ヴィオラで演奏する「シャコンヌ」は、ヴァイオリンより5度低い分、しっとりとした深みのある音色を味わっていただけるのではないかと思います。


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2017/07/02

F.シューベルト / 交響曲第5番 変ロ長調 D.485

「魔王」「冬の旅」などの歌曲で知られるシューベルトは、交響曲の分野でも作品を残しています。
中でも有名なのが通常4楽章で作曲されるところが2楽章までが残されている「未完成交響曲」と、ロベルト・シューマンが「天国的な長さ」と評した「ザ・グレート」でしょう。

この第5番はその双璧と言える大曲ではなく小さな編成で作曲され、クラリネットやトランペット、トロンボーン、ティンパニを欠くためモーツァルトのような雰囲気を持っています。中でも第3楽章は調性や構成がモーツァルトの第40番のそれとの類似性がよく言及されます。
また同時期に作曲された第4番は「悲劇的」の標題とハ短調の属性を持ち、ベートーヴェン的な交響曲の王道を目指したのとは対の関係にあるとも言えます。
そしてメロディーメーカーであるシューベルト、古典的ながらも「歌」に満ち情緒感あふれる曲になっているところがこの曲の魅力でしょう。

交響曲第4番、第5番が作曲されたのは1816年、シューベルトが19歳の時。
この時期に教職を辞し音楽活動に専念するシューベルトはその後10年に渡り数々の作品を残し、そしてわずか31歳でこの世を去ります。
19歳の作品を演奏しながら、もっと多くの作品を残して欲しかった、そんな思いに駆られる1曲です。

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室内楽演奏会vol.8